音楽 CLASSIC

J.S.バッハ 管弦楽組曲第2番

2012.07.10
メロディー・メーカーとしてのバッハ

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 バッハの4つの管弦楽組曲がいつ書かれたのか、はっきりしたことはわかっていない。ケーテン時代(1717年〜1723年)の作という説が有力ではあるが、第1番や第4番に関しては、それより後に作曲されたのではないかとみる人も多い。
 また、「管弦楽組曲」というのも正式名称ではなく、当時は「序曲」と呼ばれていたらしい。なぜ「序曲」なのか。例えば、第2番の場合、「序曲、ロンド、サラバンド、ブレー、ポロネーズ、メヌエット、バディネリ」の7曲構成になっている。本来なら、これ全部が作品名にあたるのだが、さすがに長すぎる。そこで1曲目だけ取り上げて、「序曲」と名付けられたという。ただ、そうはいっても、私たちの感覚では「管弦楽組曲」と呼ばれてきたものに対して「序曲」という言葉を用いることには違和感を覚える。なので、ここでは慣れ親しんでいる呼び名、「管弦楽組曲」で通したいと思う。

 バッハの管弦楽組曲は、既述したように4作品ある。1番と2番は各7曲、3番と4番は各5曲で構成されている。つまり、バッハは4つの管弦楽組曲のために計24曲を書いた。この中で一番有名なのは、やはり第3番の第2曲「エアー」だろう。アウグスト・ヴィルヘルミ編曲による「G線上のアリア」は誰もが知っている。
 しかし、組曲ごとに見た時、メロディー・メーカーとしてのバッハの才能が最もわかりやすく発揮されているのは、第2番ロ短調である。バッハのことを「メロディー・メーカー」などと呼ぶと怒られそうだが、そう表現したくなるくらい、ここには美しく親しみやすい旋律が惜しげもなく詰め込まれている。

 管弦楽組曲第2番はフルート(フラウト・トラヴェルソ)とオーケストラのための作品で、作曲年は1721年頃とみられている。第1曲の〈序曲〉は、深刻な調子で始まり、悲劇の予兆を思わせる。が、続くリズミカルなフーガでフルートの音色が躍動し、緊張感が緩和される。第2曲の〈ロンド〉は、グルーミーな名旋律に彩られたガヴォット。第3曲の〈サラバンド〉は、翳りを帯びた淡色の旋律がやさしく歌われる。第4曲の〈ブレー〉は、オケがアレグロで突き進む中、挿入されるフルートのエレガントなソロが印象的。第5曲の〈ポロネーズ〉も、整った形式から放たれるように、フルートのソロが活躍する。第6曲の〈メヌエット〉は、どこか第5曲と相通ずる、しかし、それよりはややくだけた旋律を持った小品。第7曲の〈バディネリ〉は、「冗談」という意味。フルートが軽やかなステップを踏みながら曲を終えるが、その旋律は「冗談」では済まないほど魅惑的である。息が詰まるような重たい雰囲気で始まりながら、最後は「冗談」で終わるという、ユニークな構成を持った作品である。

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 録音では、オットー・クレンペラー指揮、フィルハーモニア管による1954年の演奏が傑出している。重くなりすぎない響きの深さ、厳格になりすぎない端正さなど、バランス感覚に秀でているだけでなく、フレージングも実にみずみずしい。1969年にニュー・フィルハーモニア管と吹き込んだ重厚な演奏よりも、私は好んで聴いている。カール・リヒター指揮、ミュンヘン・バッハ管の録音も昔から高い評価を得ている名盤。造形に対するリヒターの厳しいまなざしを感じさせる、隅々まで神経の行き届いた演奏で、思わず襟をただして聴きたくなる。
 エドゥアルト・ファン・ベイヌム指揮、アムステルダム・コンセルトヘボウ管による1955年の録音も、この作品を語る上で外せない美演。人に押しつけるような解釈は一切なく、よどみなく、格調高く旋律を歌わせながら、音色のニュアンスに陰影を施し、にじむような余韻を残す。カール・ミュンヒンガーがシュトゥットガルト室内管を指揮した録音も、定番の一枚。これはジャン=ピエール・ランパルがフルートを吹いているという意味でも聴く価値はある。


【関連サイト】
J.S.バッハ「管弦楽組曲第2番」(CD)
ヨハン・セバスチャン・バッハ
[1685.3.31-1750.7.28]
管弦楽組曲第2番 ロ短調 BWV.1067

【お薦めディスク】(掲載ジャケット:上から)
フィルハーモニア管弦楽団
オットー・クレンペラー指揮
録音:1954年

アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
エドゥアルト・ファン・ベイヌム指揮
録音:1955年

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