![音楽 CLASSIC](/img/cat_classic.gif)
ブルックナー 交響曲第5番
2019.06.04
扉の向こうにある宇宙
![BRUCKNER5_j1](http://www.hananoe.jp/2019/06/01/BRUCKNER5_j1.jpg)
各楽章の主題の扱いは細かく計算され、旋律の素材は無意味に処理されることがなく、有機的に連関している。ただ、一度聴いただけで全体のまとまりを把握するのは難しい。とっかかりとなるのは、同じ音型(テンポは全く異なる)を持つ第2楽章と第3楽章の冒頭、ベートーヴェンの「第九」のように第1楽章と第2楽章が回想される第4楽章の序奏、同じく第4楽章のコーダ近くで第1楽章の第1主題が繰り返される箇所だろう。この辺りから全容が見えてくる。
作曲は1875年2月14日から1876年5月16日にかけて行われた。その後、1877年5月から再び手を入れ、完成を見たのは1878年1月のことである。初演は1894年にフランツ・シャルクの指揮によって行われたが、演奏されたのはシャルクによる改訂版であり、ブルックナー本来の意図に基づく原典版(ロベルト・ハース校訂)は1935年10月に初演された。
第1楽章はピツィカートで静かに始まる。この冒頭についてはモーツァルトの「レクイエム」からの影響が指摘されている。3つの主題は親しみやすいが、金管のファンファーレは荘厳だ。全体的に強弱の印象の差が大きく、流麗さ、強靭さ、荘厳さが激しく入れ替わるため、自然発生的な流動感や膨張感よりも、人間(作曲者)の意志と理性の力を感じさせる。その力が、人工的で巨大な宇宙を形成しているのである。ほとんどのフレーズは主題と何らかの形で連関しており、細かく統制されている。コーダはブルックナーらしく華々しい。
第2楽章はアダージョ。私が最も好きなブルックナーのアダージョである。この主題はただ美しいというだけではない。宗教的な崇高さよりも、生命を持ち、感情と肉体を持つ人間の尊さを感じさせる。これは、作曲当時51歳だったブルックナーが経済的に苦しく、精神的にも落ち込んでいて、そこから立ち直ろうとしていたことが影響しているのかもしれないが、そういう伝記的なことはこの際置いておこう。胸を熱くする旋律であり、心を潤す響きである。
第3楽章はブルックナーらしい造型のスケルツォ。先にもふれたように、第2楽章冒頭の弦の動きがテンポを変えて再現され、この音型のヴァリエーションが大きな役割を担う。最初、私には旋律的にさほど魅力があるとも思えず、また、この楽章が全体の中で意味することが何なのか理解できなかった。しかし何度か聴くうちに、ここに第1楽章と第2楽章の素材や断片があり、それらがスケルツォという装置の中で大きなエネルギーを放射していることに気付き、深い感銘を受けた。
第4楽章は、本当に面白い。序奏で第1楽章と第2楽章が回想されるたびに、クラリネットが何となく場違いな感じで軽いフレーズを奏でるのだが、この不思議な楽句がフーガ主題となり、とんでもない大きさになって増殖する。そして第1楽章の主題と重なり、その後、仰ぎ見るような「コラール」へと到達する。道化師だと思っていた人が実は神様だった、というくらいの印象の差だ。私はこのフィナーレを聴くと、畏敬の念で拝跪したくなるような心地になる。
第5番の名演奏としてまず思い浮かぶのは、オイゲン・ヨッフム指揮、アムステルダム・コンセルトヘボウ管の演奏によるライヴ(1986年12月3日、4日録音)だ。この作品の緻密な内容や巨大なスケールが無理な力を使うことなく表現されていて、しかも私たちを大きな手で包むような慈愛に満ちているように感じられる。こんな美しい音楽を生で聴いたら、法悦の中で失神しそうだ。ヨッフムにはもうひとつ素晴らしいライヴ(1964年3月30日、31日)があるのだが、私には、1986年の演奏を聴いた感動の方が大きかった。高い次元での比較である。
![BRUCKNER5_j2](http://www.hananoe.jp/2019/06/01/BRUCKNER5_j2.jpg)
(阿部十三)
アントン・ブルックナー
[1824.9.4-1896.10.11]
交響曲第5番 変ロ長調
【お薦めディスク】(掲載ジャケット:上から)
オイゲン・ヨッフム指揮
アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音:1986年(ライヴ)
ルドルフ・ケンペ指揮
ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1975年
[1824.9.4-1896.10.11]
交響曲第5番 変ロ長調
【お薦めディスク】(掲載ジャケット:上から)
オイゲン・ヨッフム指揮
アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音:1986年(ライヴ)
ルドルフ・ケンペ指揮
ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1975年
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