音楽 CLASSIC

リスト ピアノ協奏曲第2番

2022.07.04
交響詩のような協奏曲

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 フランツ・リストのピアノ協奏曲第2番は1839年に作曲され、同年9月13日に完成した。ただ、そのまま初演されたわけではない。何度も手を加え、1848年に「交響的協奏曲」と命名し、1849年にいったん改訂を終了。それでも納得が行かず、さらに1856年に補筆し、ようやく1857年1月7日に初演された。その後もリストは手直しを続け、1863年に楽譜が出版された。

 第1番の方はどうかというと、初稿を仕上げたのは1835年だが、完成したのは1839年。それから1849年まで改訂を繰り返し、1855年に初演された。第1番の経験を生かし、より緻密に作られたのが第2番だという人もいるが、2作の作曲はほとんど連動して行われていたようである。当然ながら少し似たフレーズも出てくる。

 第2番には楽章ごとの切れ目がない。6つの部に分かれているが、最初から最後まで休みなく続く。形式は狂詩曲のように自由であり、冒頭に現れる神秘的な主題が様々に変化して繰り返され、劇的な起伏をみせる。華麗なる激動を示すその構成には、それまでに書いた交響詩の作曲経験が生かされていて、ロマンティックな物語を読むような味わいがあり、聴き手の気分を高揚させる。

 第1部はアダージョ・ソステヌート・アッサイ。まず美しい第1主題が木管によって静かに奏でられる。幻想的で夢見心地な雰囲気が漂うが、ピアノのカデンツァの後、いかめしい第2主題が登場して熱気を帯びる。第2部はアレグロ・アジタート・アッサイ。ピアノが跳ねるようなリズムで新しい主題を奏で、弦楽器がそれを支える。さらにデモーニッシュな主題が力強く登場し、魔物が地を這うような様相を呈する。第3部はアレグロ・モデラート。第2部に登場した主題が変形されて甘美なフレーズとなり、弦楽器によってゆるやかに奏でられる。その後、ピアノと管弦楽の優しい対話が続く。

 第4部はアレグロ・デチーソ。ピアノが躍動し、管楽器が第2主題を変形させたフレーズを奏でる。ピアノとオーケストラの掛け合いがエキサイティングで、空気が一気に緊張する。第5部はマルツィアーレ・ウン・ポーコ・メーノ・アレグロ。第1主題が行進曲風にアレンジされて輝かしく響いた後、複数の主題が混淆して激情的になる。後半は穏やかになり、第1部の冒頭の雰囲気が回想される。第6部はアレグロ・アニマート。ピアノがトップギアで疾走し、華麗な名技を披露する。オーケストラも勢いを増し、これまで登場した主題が顔を出した後、第5部の冒頭が簡潔な形で再現され、劇的なクライマックスを形成して終わる。

 先述したように、リストは改訂作業中(1848年)に「交響的協奏曲」と命名した。ネーミングの由来はおそらくリトロフの同名作品だが、最終的には「交響詩風協奏曲」になった。「協奏曲風交響詩」と言ってもいいかもしれない。叙情性は第1番に比べると豊かで、第1部や第3部は詩的ですらある。無論、技巧は必要だが、ただ技巧が優れているだけでは良い演奏にならない。強弱の響きにも注意が必要だ。特にfff(フォルテッシシモ)の箇所では、音をコントロールする術を知らないと、ただの騒音になる。

 第1部冒頭の主題はいわば物語の主人公みたいなもので、これが第5部の冒頭で姿を変えて堂々と現れるところは感動的である。言ってみれば、旅に出た夢見る青年が英雄になって戻ってきたような感がある。ちなみに、この印象的な主題はどことなくベートーヴェンの三重協奏曲の主題に似ている。孫弟子にあたるリストがそれを意識していたかどうかは知る由もないが。

 私が第2番を聴いて連想するのは、ベートーヴェンの三重協奏曲だけではない。ロベルト・シューマンが1849年に書いた幻想的な協奏曲も、脳裏をかすめる。作品名は『序奏とアレグロ・アパッショナート』(初演は1850年)。序奏と主部に分かれているが、切れ目はない。これも夢見心地な雰囲気と劇的な激しさの両面を持っていた。オーケストレーションはリストの方がブリリアントで、演奏効果も絶大だが、シューマンの作品も美しいし、詩的な味わいがある。

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 録音では、リスト弾きとして知られるジョルジ・シフラの演奏(1958年録音)が昔から高く評価されている。指揮はアンドレ・ヴァンデルノート、オケはフィルハーモニア管。テクニックが凄まじく冴えていて、デュナーミクも巧みだ。難しいパッセージでもピアノの音がすっきりしていて、さらりと聴ける。スヴャトスラフ・リヒテル独奏、キリル・コンドラシン指揮、ロンドン響の演奏(1961年録音)は、ピアノの音の美しさが際立つ名演で、技術も安定しているし、作品の世界観が立体的に浮き上がってくるようなダイナミックさがある。

 この作品の録音の中で、最も狂熱的な演奏は、リストの孫弟子にあたるクラウディオ・アラウのライヴ(1953年ライヴ録音)だろう。アラウのテンションが驚くほど高く、オーケストラとの掛け合いもエキサイティングだ。それでいて強音の響きは絶妙にコントロールされている。ただの爆演ではない。伴奏を務めるのは、天才指揮者グイド・カンテッリ率いるニューヨーク・フィル。オケの音には色彩感があり、アンサンブルは引き締まっている。アラウも素晴らしいが、猛々しい音の荒波を統御するカンテッリの指揮ぶりも鮮やかだ。

 セルジオ・フィオレンティーノ盤(1966年録音)は叙情性を重んじた演奏で、この作品から詩的な美しさを引き出すことに傾注している。ピアノは文句なしに良い。ただし、いかんせんオーケストラが弱くて盛り上がりに欠ける。1960年代の録音にしては音質も悪い。ラザール・ベルマン独奏、カルロ・マリア・ジュリーニ指揮、ウィーン交響楽団(1976年録音)も美演で、前半はゆったりとしたテンポが奏功し、フレージングに深いニュアンスが感じられて魅力的だ。ただし、後半はテンポの遅さが仇となって演奏がもつれている感じがする。

 フィリップ・アントルモン盤(1959年録音)や、クリスティアン・ツィメルマン盤(1987年録音)もよく知られた演奏で、ファンも多い。私もピアノに不満はないが、曲が盛り上がる要所でアンサンブルに綻びが出たりして、もったいないと感じる。21世紀以降の演奏でインパクトがあったのは、カティア・ブニアティシヴィリのライヴ(2015年収録/映像のみ)。ピアノがとにかくアグレッシヴで、快速ぶりが尋常でない。表現力もあり、音にも重さがあるので、高揚感を味わえる。
(阿部十三)


【関連サイト】
フランツ・リスト
[1811.10.22-1886.7.31]
ピアノ協奏曲第2番 イ長調

【お薦めの演奏】(掲載ジャケット:上から)
クラウディオ・アラウ(p)
グイド・カンテッリ指揮
ニューヨーク・フィルハーモニック
録音:1953年(ライヴ)

ジョルジ・シフラ(p)
アンドレ・ヴァンデルノート指揮
フィルハーモニア管弦楽団
録音:1958年

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