音楽 CLASSIC

プロコフィエフ 交響曲第1番「古典」

2024.03.11
古典派風のモダンシンフォニー

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 プロコフィエフの交響曲第1番「古典」は、1916年から1917年にかけて作曲された。当時25歳だったプロコフィエフは、かつてニコライ・チェレプニン(ペテルブルク音楽院教授)のもとで研究したハイドンの技法を活かし、「ハイドンが現代に生きていたら書いたであろう作品」を書こうとしたという。初演日は1918年4月21日。レニングラードで作曲者の指揮によって行われた。

 構成は古典派風で明快、少しの無駄もない。そして、その響きは鋭角的で新鮮。高速かつ技巧的なパッセージ、優雅で抒情的な旋律も楽しめる。生真面目さとは一線を画した諧謔味とユーモアもある。「古典性」「革新性」「トッカータの要素」「抒情性」「スケルツォ性」というプロコフィエフの作品の特徴が、簡潔にまとめられている。演奏時間は15分もかからない。疾風のように駆け抜けて終わる。

 単なるハイドンの模倣なら、本家の100以上ある交響曲を聴けば事足りる。そうではなく、「ハイドンが現代に生きていたら書いたであろう」というところがポイントである。リズムや和声にはプロコフィエフらしい大胆さが見られ、中庸に落ち着くことをよしとしない。古典派を装いながら、作曲者の感性は極めてモダンで、耳慣れた感じや古臭さは皆無である。アヴァンギャルドな絵の上に、擬古典の絵を描いているような印象もある。

 第1楽章はアレグロ。ニ長調。ソナタ形式。冒頭からフォルテッシモで快活な第1主題が提示される。その後ハ長調になり、フルートによる推移主題を経て、ヴァイオリンが端然とした第2主題(イ長調)を奏でる。ここから勢いを増し、第1主題をもとにした小結尾句へ。展開部では第1主題が変形され、さらに第2主題がシンコペートされて活気づく。第1主題がハ長調で再現されると、提示部とは逆にニ長調へ移行し、あとは型通りの再現部となる。

 第2楽章はラルゲット。イ長調。三部形式。4小節の序奏の後、主部で穏やかな旋律が紡がれ、優美な雰囲気に包まれる。中間部ではファゴットと弦楽器がピアニッシモで歯切れ良くリズムを刻み、徐々にクレッシェンドして他の楽器も加わり、フォルテッシモに達する。再び主部の旋律が再現され、オーボエの装飾楽句に支えられて少し発展を見せる。最後は序奏を繰り返して終わる。

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 第3楽章はガヴォット(ノン・トロッポ・アレグロ)。ニ長調。古典派音楽ならメヌエットとなるところだが、バロック時代によく用いられたガヴォットを配置。主部で舞踏音楽風の旋律が奏でられる。短い中間部の後、フルートがテンポを落として主部の旋律を奏で、他の楽器に支えられながら進行する。それがまもなく消え、他の楽器も徐々に減り、最後はヴィオラ以外の弦楽器のみが残る。ハイドンの「告別」風である。

 第4楽章はモルト・ヴィヴァーチェ。ニ長調。ソナタ形式。躍動的な第1主題がニ長調で提示され、高速で進行する。フルートが軽やかな第2主題を奏で、弦楽器がそれを繰り返し、主題とは異なる音型に導かれてコデッタへ。展開部ではコデッタを導いた音型のストレッタが登場、さらに第2主題も現れ、せわしなさが増す。その後フルートが第1主題を奏でて再現部が始まり、最後は力強く曲を閉じる。猛烈なスピード感と巧妙な転調、フルートの妙技を楽しめる。

 アンサンブルの精密さと躍動感が求められる作品である。両端楽章はテンポが速く、強弱の変化も急なので、小編成のオーケストラが有利だが、あまり規模が小さいと強音の迫力が出ない。音の響きが重くても、動きがもっさりして爽快感が減退する。この辺りのバランスの取り方は簡単そうで難しい。また、この作品ではフルートがヴァイオリンと同じくらい重要な役割を担っている。高度な技巧を要する第4楽章など、フルートの独壇場と言っても過言ではない。フルートが下手だと演奏として成り立たない。

 第3楽章のガヴォットは、後年バレエ音楽『ロメオとジュリエット』に転用された有名曲である。ほかにも、ボー・ウィデルベルイ監督の映画『サッカー小僧』に引用されていた。もっとも、この映画にはガヴォットだけでなく全楽章が満遍なく使われていて、ストーリーと合っているかどうかはともかく、プロコフィエフ愛を感じさせたものである。

 アンサンブルが精密な演奏は少なくない。ただ、軽みと優雅さを備えた演奏は限られている。私が鑑賞のポイントとしているのは第1楽章の終わりで、ここがもっさりとしていて、オーケストラの音を引きずっている感じだと興ざめする。テンポの速さにはそこまでこだわらない。第1楽章をアレグロとは思えない遅いテンポで聴かせ、思いがけない美しさを発見させてくれる演奏もあるからだ。ただ、アンサンブルの精密さ、躍動感、軽み、優雅さは不可欠である。

 この4つを備えた演奏は、カレル・アンチェル指揮、チェコ・フィル(1956年録音)、ユージン・オーマンディ指揮、フィラデルフィア管(1961年録音)、レナード・バーンスタイン指揮、ニューヨーク・フィル(1968年録音)、クラウディオ・アバド指揮、ヨーロッパ室内管(1986年録音)、ジェームズ・レヴァイン指揮、シカゴ響(1992年録音)の5種である。いかにもこの作品が得意そうなアルトゥーロ・トスカニーニ盤(1951年ライヴ録音)も名演だが、音質がかなり古い。

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 アンチェル盤はこの中では最速の演奏だ。単にきびきびとしているだけでなく、楽器の音色に艶があり、爽快感だけでなく愛嬌もある。オーマンディ盤はテンポが理想的で、アンサンブルも心地よく、ピッツィカートの音すら美しい。フルートの妙技も冴えている。バーンスタイン盤は巧みに低弦や打楽器でアクセントを付けながら、精力的に前進している印象。アバド盤は小規模編成だが、楽器の音に色彩感があり、自在に緩急強弱を付け、愉快な気分を醸している。レヴァイン盤も名演で、旋律の歌わせ方がエモーショナル。打楽器の使い方も上手く、厚みのあるアンサンブルが生き生きと躍動している。
 この作品はまだまだ面白い表現ができると思うし、工夫と技巧次第で新たな名盤が生まれる可能性もある。今後に期待したい。


【関連サイト】
Prokofiev Symphony No.1(CD)
セルゲイ・プロコフィエフ
[1891.4.23-1953.3.5]
交響曲第1番「古典」 作品25

【お薦めの演奏】(掲載ジャケット:上から)
ユージン・オーマンディ指揮
フィラデルフィア管弦楽団
録音:1961年

レナード・バーンスタイン指揮
ニューヨーク・フィルハーモニック
録音:1968年

クラウディオ・アバド指揮
ヨーロッパ室内管弦楽団
録音:1986年

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