音楽 POP/ROCK

サークル・ジャークス 『グループ・セックス』

2013.06.05
サークル・ジャークス
『グループ・セックス』
1980年作品


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 初期LAハードコア・シーンを代表するパンク・バンドのサークル・ジャークスが、結成から1年足らずの1980年にリリースしたデビュー作である。ロックの歴史を変えた作品ではないかもしれないが、アメリカン・ハードコア最初のアルバムの一枚だから、マイナー・スレットをはじめとして当時から現在まで影響を口にするバンドが多い問答無用の名盤だ。

 ハードコア・パンクを定義づけたバンドの一つであるブラック・フラッグのオリジナル・シンガーだったにもかかわらず、1978年にデビューEPをリリースしてからまもなく解雇されたキース・モリス(vo)がリーダーで、バッド・レリジョンのグレッグ・ヘトソン(g)もずっとメンバーだった。ライヴを観に行ってレコードを買うほどのファンのアレックス・コックスが監督した映画『レポマン』(1984年)にも出演し、曲も使われたバンドだ。

 『グループ・セックス』は1分前後の曲オンリーである。音と言葉でひたすら結論と核のみを叩きつける。すなわちパンクであり、まさにハードコアである。だらだらなんてやってらんないから14曲で16分弱。潔い。アルバム全体で短すぎて買った人に申し訳ないと思ったのかバッド・レリジョンのブレット・ガーヴィッツ主宰のエピタフ・レコードが、CDで再発した際に最後の曲が終わった後にまた1曲目が始まる「2セット分」収録の「珍盤」でリリースしていたほど、あっという間だ。

 太くて熱いギターとタイトで小回りの効いたビートの乾いたサウンドはLAのイメージそのもの。そんな音の上でヴォーカルのキースが荒ぶる喉をファニーに震わせて歌い叫ぶ。いかれているからプリミティヴなのは当たり前。だらしないエナジーがフル回転だからポーズつける余裕なんてない。そもそもキースがブラック・フラッグをクビになったのもアルコールとドラッグがひどかったからで、そういう天然のノリでハジけて跳んで転がって駆け抜けるから痛快極まりないのだ。

 ハードコア・パンクの特徴の一つであるツー・ビートで飛ばす曲ばかりではないが、なんたって加速度が破格だ。聴いているとココロもカラダも火照ってきてじっとしていられなくなる。

 80年代初頭のUSハードコア・シーンは暴力的で特にLA周辺は際立っていたそうだが、その中でも特にサークル・ジャークスのファンのノリは激しくて日頃の鬱憤を晴らすべく暴れ、ツアーに付いてきて他の地域にヴァイオレントな楽しみ方を「輸出」したという話もある。70年代のパンク・ロックのライヴでよく見られたポゴダンスではなく、両手両脚を振って周りの人間に体をぶつけて踊りまくるスラム・ダンス/モッシュのノリを生み出したバンドの一つとも言えるのだ。腕と脚を上げて駆け出しそうなポーズでダンスするアートワークのハードコア・パンクスの画は、サークル・ジャークスのキャラクターにもなっている。

 実はこのアルバム、メンバーが以前やっていたバンドなどの曲のリメイクだらけという声も絶えない。あからさまにわかるのは、ブラック・フラッグのデビューEP収録曲「Wasted」の倍速ヴァージョン。「リブ・ファースト・ダイ・ヤング」はギターのグレッグが在籍していたレッド・クロスの「Cover Band」が元ネタだ。けど、そういうテキトーなところもひっくるめて原始のパンク・スピリットってもんである。

 たしかにいいかげんだが、シンプルながらもサウンドはディープである。よく音楽を聴いていることが伝わってくるほど音にダシが効いており、過去のポピュラー・ミュージックを踏まえたソングライティングなのだ。次作以降でガーランド・ジェフリーズ、ポール・リヴィア&レイダース、ジャッキー・デシャノン、クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル(CCR)、英国のクリエイションなどの曲をレコーディングしたのも象徴的。そうやってカヴァーをガンガンやっていたことも、ロックンロールの伝統にのっとったバンドであることを示している。

 身もふたもないアルバム・タイトルだが、根がパーティのノリのハードコア・パンク・バンドだからウソがない。「ディナイ・エブリシング」「ドント・ケア」「リブ・ファースト・ダイ・ヤング」という、〈ネガティヴ・メンタル・アティテュード〉全開の曲名にもサークル・ジャークスのキャラがよく表れている。食うものに困っているわけじゃないが、音と同じくロクデナシのフラストレーションがストレートに炸裂しているのだ。友達の結婚式に集まった人たちをスケートボード・パークのプールで撮った写真を加工したジャケットも、USハードコアのストリート・カルチャーとのつながりをパンクに表現したクールなアートワークである。その一方「ペイド・バケイション」では早々とアフガニスタンとアメリカの関係を歌っていて、先見の明と直感にも驚かされるのだ。

 このアルバムの後もサークル・ジャークスは解散を繰り返しながら断続的に活動していったが、グレッグがずっとギターを弾いているバッド・レリジョンで忙しいために半ばフェイドアウト。2000年代末以降、キースはハードコア・パンク・バンドのオフ!で歌っている。
(行川和彦)


【関連サイト】
サークル・ジャークス『グループ・セックス』(CD)
『グループ・セックス』収録曲
01. ディナイ・エブリシング/02. アイ・ジャスト・ウォント・サム・スカンク/03. ビバリー・ヒルズ/04. オペレーション/05. バック・アゲインスト・ザ・ウォール/06. ウェイステッド/07. ビハインド・ザ・ドア/08. ワールド・アップ・マイ・アス/09. ペイド・バケイション/10. ドント・ケア/11. リブ・ファースト・ダイ・ヤング/12. ホワッツ・ユア・プロブレム/13. グループ・セックス/14. レッド・テープ

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