スーパー・ファーリー・アニマルズ 『ファジー・ロジック』
2016.07.23
スーパー・ファーリー・アニマルズ
『ファジー・ロジック』
1996年作品
そんな彼らのエキセントリシティとユーモアは、今からちょうど20年前にクリエイション・レーベルから登場した、この素晴らしいファースト・アルバム『ファジー・ロジック』(全英チャート最高23位)にも充分に表れていた。それぞれに長年ウェールズ語のバンドで活動していた5人のメンバー、グリフ・リース(ヴォーカル、ギター)、キーアン・キアラン(キーボード)、ギト・プライス(ベース)、ダフィッド・エヴァン(ドラムス)、ヒュー・バンフォード(ギター)は、1993年にカーディフでバンドを結成。徹底した地元密着型の彼ら、まずはカーディフに拠点を置くインディ・レーベルAnkstと契約し、ウェールズ語の曲を発表していたものの、クリエイションからより幅広い層に音楽を届けるにあたって、本作では歌詞を英語で統一。地元出身のゴーウェル・オーウェンを共同プロデューサーに迎えて、レコーディングに着手した。
そして完成に至ったアルバムは、ラウドなギターリフに乗せて"なんかすごいことやってみなよ"と神をおちょくる、SFA流の無神論アンセム「God! Show Me Magic」で、幕を開ける。かと思えば2曲目「Fuzzy Birds」はなぜか、ペットのハムスター=スタヴロスとヒューが交わす想像上の会話!? スタヴロスに回し車で発電させて、自宅の電気をまかなおうというヒューの企みが明らかにされてゆく。以後、もっぱら夢と妄想にインスパイアされたと思しきグリフの歌詞は、凶器と化したフリスビーに関する「Frisbee」、自分の自由を制限する重力に文句を垂れる「If You Don't Want Me To Destroy You」、指に水膨れができるまでゲームにふける男の話「Mario Man」......と、ランダム極まりない。「Hometown Unicorn」では、1970年代に宇宙人に誘拐されたと主張したフランス人男性を引き合いに望郷の念を歌うなど、歌詞で言及する人物のセレクションも然り。強いて言えばやっぱりウェールズ人が多くて、中でも注目すべきは、さる2016年4月に亡くなったハワード・マークスだろうか?
そう、その名もずばり「Hangin' With Howard Marks」と題された曲は、オックスフォード大学を卒業してドラッグ密売人になり、その一方で英国政府のスパイでもあったとされ、服役したのちに作家デビューするーーという波瀾の人生を送った、ウェールズの裏レジェンドへのオマージュだ。アルバム・ジャケットに並ぶのも全てハワードの写真で、密売人時代の彼の変装術を示すもの。そのハワードの役を、彼の自伝映画『My Nice』で演じたウェールズ人俳優のリース・イーヴァンス(『ノッティングヒルの恋人』などで知られる彼は、一時SFAのヴォーカルを務めたことがある)もちなみに、「Long Gone」に使われた留守電のメッセージで登場する。
だから聴くほうもオープンマインドでなければ、とてもついて行けないアルバムなのだが、その分サウンドには一定の統一感があるのかもしれない。それは、シド・バレットやブライアン・ウィルソン、デヴィッド・ボウイにマーク・ボランを交互に想起させる、サイケデリック・ポップとグラムロックのミクスチュア。曲ごとにパンクやプログレやエレクトロニカ、或いは各地の民族音楽の要素で緩急と変化をつけていて、どの曲もどこかが引っかかる。どこかが歪んでいる。例えばアウトロが長すぎたり、そこにあってはならないように感じられるものがある。それでいて、そういう違和感が快感でもあり、メロディは絶対に犠牲にしないから、究極的には果てしなくキャッチーでポップな楽曲に着地するのだ。
そして、これまたウェールズ出身で、英国ITV局の名物気象予報士として愛されたシャーン・ロイドが登場するラストの「For Now And Ever」は、団結と自由を訴えるメッセージ・ソング。ポジティヴな歌詞も、オールドファッションな1970年代ロック風の曲調もいたって直球のようで、最後はノイズのカオスに包まれて、なぜかちょろちょろと水が流れる音と共にアルバムは幕を閉じる。狐につままれたような気分の聴き手をあとに残してーー。決して難解ではないけど一筋縄ではいかず、同世代のブリットポップ勢の、ある意味で偏狭かつ単純な志向に背を向けていたSFAは、以来ずっとこの調子だ。たまにウェールズ語で歌ったり、エレクトロニックに傾倒したり、イエティの着ぐるみ姿でライヴを行なったり(バンド名が「超モコモコ動物」なので......)、ゴルフカートに乗ってステージに現れたり、やりたい放題にやってきた。7年ぶりの新曲にあたる「Bing Bong」を聴く限りそんなスタンスは変わらず、彼らが描くウェールズは不思議の国であり続けている。なんたって、各地のスタジアムではためいていた国旗には真っ赤な竜が描かれているくらいだから......。
【関連サイト】
SUPER FURRY ANIMALS
『ファジー・ロジック』
1996年作品
先頃終幕したUEFA欧州選手権で歴史的な大健闘を見せて、世界を沸かせたウェールズ。サッカー大国として一気に注目度を上げたが、シャーリー・バッシーやトム・ジョーンズの名を挙げるまでもなく、音楽シーンの豊かさはかねてから広く知られているところだ。よって、58年ぶりに出場を決めたチームの健闘を祈るべく、ウェールズを代表する2組のバンドが応援歌を制作。ひとつはマニック・ストリート・プリーチャーズによる〈公式〉ソング「Together Stronger (C'mon Wales)」。もうひとつの〈非公式〉ソング「Bing Bong」を作ったのが、スーパー・ファーリー・アニマルズ(以下SFA)だった。非常に仲がいいのだが全然タイプが違うこれら2組は、曲のタイトルが示唆する通り、リアルとシュール、対照的なアングルで故郷を象徴していると言えるのだろう。ウェールズのサッカーの歴史を辿る「Together〜」が情報量たっぷりの王道応援歌ならば、「Bing Bong」はひたすら"ビン・ボン・ビン・ボン......"と繰り返し、合間にウェールズ語の歌詞を織り込んだ、奇妙な異次元ディスコなのである。
そんな彼らのエキセントリシティとユーモアは、今からちょうど20年前にクリエイション・レーベルから登場した、この素晴らしいファースト・アルバム『ファジー・ロジック』(全英チャート最高23位)にも充分に表れていた。それぞれに長年ウェールズ語のバンドで活動していた5人のメンバー、グリフ・リース(ヴォーカル、ギター)、キーアン・キアラン(キーボード)、ギト・プライス(ベース)、ダフィッド・エヴァン(ドラムス)、ヒュー・バンフォード(ギター)は、1993年にカーディフでバンドを結成。徹底した地元密着型の彼ら、まずはカーディフに拠点を置くインディ・レーベルAnkstと契約し、ウェールズ語の曲を発表していたものの、クリエイションからより幅広い層に音楽を届けるにあたって、本作では歌詞を英語で統一。地元出身のゴーウェル・オーウェンを共同プロデューサーに迎えて、レコーディングに着手した。
そして完成に至ったアルバムは、ラウドなギターリフに乗せて"なんかすごいことやってみなよ"と神をおちょくる、SFA流の無神論アンセム「God! Show Me Magic」で、幕を開ける。かと思えば2曲目「Fuzzy Birds」はなぜか、ペットのハムスター=スタヴロスとヒューが交わす想像上の会話!? スタヴロスに回し車で発電させて、自宅の電気をまかなおうというヒューの企みが明らかにされてゆく。以後、もっぱら夢と妄想にインスパイアされたと思しきグリフの歌詞は、凶器と化したフリスビーに関する「Frisbee」、自分の自由を制限する重力に文句を垂れる「If You Don't Want Me To Destroy You」、指に水膨れができるまでゲームにふける男の話「Mario Man」......と、ランダム極まりない。「Hometown Unicorn」では、1970年代に宇宙人に誘拐されたと主張したフランス人男性を引き合いに望郷の念を歌うなど、歌詞で言及する人物のセレクションも然り。強いて言えばやっぱりウェールズ人が多くて、中でも注目すべきは、さる2016年4月に亡くなったハワード・マークスだろうか?
そう、その名もずばり「Hangin' With Howard Marks」と題された曲は、オックスフォード大学を卒業してドラッグ密売人になり、その一方で英国政府のスパイでもあったとされ、服役したのちに作家デビューするーーという波瀾の人生を送った、ウェールズの裏レジェンドへのオマージュだ。アルバム・ジャケットに並ぶのも全てハワードの写真で、密売人時代の彼の変装術を示すもの。そのハワードの役を、彼の自伝映画『My Nice』で演じたウェールズ人俳優のリース・イーヴァンス(『ノッティングヒルの恋人』などで知られる彼は、一時SFAのヴォーカルを務めたことがある)もちなみに、「Long Gone」に使われた留守電のメッセージで登場する。
だから聴くほうもオープンマインドでなければ、とてもついて行けないアルバムなのだが、その分サウンドには一定の統一感があるのかもしれない。それは、シド・バレットやブライアン・ウィルソン、デヴィッド・ボウイにマーク・ボランを交互に想起させる、サイケデリック・ポップとグラムロックのミクスチュア。曲ごとにパンクやプログレやエレクトロニカ、或いは各地の民族音楽の要素で緩急と変化をつけていて、どの曲もどこかが引っかかる。どこかが歪んでいる。例えばアウトロが長すぎたり、そこにあってはならないように感じられるものがある。それでいて、そういう違和感が快感でもあり、メロディは絶対に犠牲にしないから、究極的には果てしなくキャッチーでポップな楽曲に着地するのだ。
そして、これまたウェールズ出身で、英国ITV局の名物気象予報士として愛されたシャーン・ロイドが登場するラストの「For Now And Ever」は、団結と自由を訴えるメッセージ・ソング。ポジティヴな歌詞も、オールドファッションな1970年代ロック風の曲調もいたって直球のようで、最後はノイズのカオスに包まれて、なぜかちょろちょろと水が流れる音と共にアルバムは幕を閉じる。狐につままれたような気分の聴き手をあとに残してーー。決して難解ではないけど一筋縄ではいかず、同世代のブリットポップ勢の、ある意味で偏狭かつ単純な志向に背を向けていたSFAは、以来ずっとこの調子だ。たまにウェールズ語で歌ったり、エレクトロニックに傾倒したり、イエティの着ぐるみ姿でライヴを行なったり(バンド名が「超モコモコ動物」なので......)、ゴルフカートに乗ってステージに現れたり、やりたい放題にやってきた。7年ぶりの新曲にあたる「Bing Bong」を聴く限りそんなスタンスは変わらず、彼らが描くウェールズは不思議の国であり続けている。なんたって、各地のスタジアムではためいていた国旗には真っ赤な竜が描かれているくらいだから......。
(新谷洋子)
【関連サイト】
SUPER FURRY ANIMALS
『ファジー・ロジック』収録曲
01. God! Show Me Magic/02. Fuzzy Birds/03. Something 4 the Weekend/04. Frisbee/05. Hometown Unicorn/06. Gathering Moss/07. If You Don't Want Me to Destroy You/08. Bad Behaviour/09. Mario Man/10. Hangin' with Howard Marks/11. Long Gone/12. For Now and Ever
01. God! Show Me Magic/02. Fuzzy Birds/03. Something 4 the Weekend/04. Frisbee/05. Hometown Unicorn/06. Gathering Moss/07. If You Don't Want Me to Destroy You/08. Bad Behaviour/09. Mario Man/10. Hangin' with Howard Marks/11. Long Gone/12. For Now and Ever
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