音楽 POP/ROCK

ロビー・ウィリアムス 『アイヴ・ビーン・エクスペクティング・ユー』

2017.07.16
ロビー・ウィリアムス
『アイヴ・ビーン・エクスペクティング・ユー』
1998年作品


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 さる2017年6月4日、アリアナ・グランデのマンチェスター公演会場での爆弾テロ事件を受けて、大規模なチャリティ・コンサート〈One Love Manchester〉が開催された。英国最大の男性ソロ・アーティストとして20年間シーンに君臨してきたロビー・ウィリアムスは、地元を代表してステージに立ち(厳密には彼の故郷は近郊のストーク・オン・トレントだ)、セカンド・アルバム『アイヴ・ビーン・エクスペクティング・ユー』(1998年/全英チャート最高1位)のオープニング曲「ストロング」を披露。サビに手を加えてマンチェスターへの応援歌に仕立てて、「Manchester, we're strong, we're strong」と観客と合唱したものだ。じゃあオリジナルの歌詞はどうだったのか? 当時飛ぶ鳥を落とす勢いだったにもかかわらず、ロビーは「You think that I'm strong, you're wrong(僕が強い人間だと思ってるなら、大間違いだよ)」と歌っていた。ほかにも「自分がフェイクなんじゃないかって思う」といった弱音と自嘲を満載し、しまいには心の痛みをクスリで和らげちゃおうと結論付けるこの曲は、「ストロング」とは名ばかりの〈弱い僕〉の歌だったのだ。

 まずはその頂点に辿り着くまでのロビーの歩みを振り返ってみよう。1995年7月、21歳の時に、人気の絶頂にあったテイク・ザットを脱退した彼は、すぐにソロ活動を始めるつもりでいた。そもそもグループの枠内では自由に自己表現できないことに不満を募らせた挙句、脱退に至ったのだから。ところが、マネージャーに契約不履行で訴えられたりして身動きがとれず、ソロ・デビュー・シングル「フリーダム」(ワム!のカヴァー)が登場したのは1年後。この間に暇を持て余してアルコールや薬物にハマり、早速リハビリを強いられた話も有名で、1997年秋にようやくファースト・アルバム『ライフ・スルー・ザ・レンズ』で出直し。当初のセールスはふるわなかったが、4枚目のシングル「エンジェルス」が起死回生の大ヒットと化して、最終的に国内で2百万枚のセールスを記録。晴れてトップに返り咲く。

 そして、その勢いがまだ冷めやらない1998年10月に『アイヴ・ビーン〜』が登場。さらにセールスは加速し(英国内で250万、世界合計470万枚はキャリア最高値だ)、国民的スターとしてポジションを確立するわけだが、追い風を受けていたとはいえ、「エンジェルス」の成功にあやかって分かりやすいアンセム集で畳みかける戦法をとらなかったことに、本作の素晴らしさがある。コラボレーターは前作に引き続き、ガイ・チェンバース。2年前に出会って意気投合し、以後ソングライティング・パートナー兼プロデューサー兼バンマス/マルチ・インストゥルメンタリストとして、ロビーと5枚のアルバムを作ることになる、元ワールド・パーティーのキーボーディストだ。そんなロビーとガイは多くの曲にオーケストラを配し、『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』期のザ・ビートルズを筆頭に、多彩なスタイルを反映させて、壮大なシンフォニックなポップ集を完成。ブリットポップのスピリットを受け継いだファーストでは、太々しく世界を挑発することに徹したロビーは、今回は対照的なスタンスをとる。まさに冒頭で触れたような弱さや脆さやシニカルさをさらけ出して、自分のパーソナリティのもうひとつの極を本作に投影したのである。その無防備でもって聴き手との距離を縮めて、より深く感情移入する隙を与えたと言えるのだろう。

 初の全米ナンバーワン・ヒットとなった「ミレニアム」も面白い曲だ。ジョン・バリー作の『007は二度死ぬ』の主題歌のストリングスを引用し、そこにブレイクビーツに乗せるというプロダクションからしてユニークだが、ロビーの説明によると、人間の運命を方向付けるのは専ら社会や時代といった外的要素で、我々はそれに抗う術を持たないという無力感みたいなものを描写しているとか。気分が高揚しそうで高揚し切らない反復的な構成も相俟って、新世紀前夜の憂鬱感を見事に捉えていたと思う。また本作には、テイク・ザット時代を題材にした曲も少なくない。「ノー・リグレッツ」はテイク・ザットの残る4人のメンバーに宛てられており、「仲良く一緒に成長するという筋書きもあり得たのかな?」と想像しつつ、グループ内で感じていた疎外感や違和感を回想し、辞めたことに後悔はないと言い切る。ちなみにこの曲には、ロビーが敬愛するペット・ショップ・ボーイズのニール・テナントとディヴァイン・コメディのニール・ハノンが、バッキング・コーラスで参加。ふたつのグループの影響も、シアトリカルかつメランコリックな曲調に色濃く表れている。

 一方、ラウンジ・ポップ風の「グレイス」には、一旦売ってしまった魂をなんとか取り戻そうとする彼の葛藤が綴られ、「カーマ・キラー」はテイク・ザットのマネージャーだったナイジェル・マーティン・スミスに関する曲であることを、ロビーは明言している。ことあるごとに彼の自信を損なって傷付けてきたナイジェルへの怒りを、ぶっちゃけ「死ね」と罵って思い切り発散。アグレッシヴなギターロックに豪奢なストリングスを絡めたサウンドは、この時期のマニック・ストリート・プリーチャーズの作品を思わせなくもない。こうして聴いていると、テイク・ザットはロビーに名声と富とスリルを与えはしたものの、彼を幸福にしてくれなかったことを本作は如実に物語っており、ここにきて一種のPTSDと向き合って、過去と決別しようと試みているようでもある。

 そんなロビーだから、このアルバムを制作していた頃はニコール・アップルトン(女性グループ、オール・セインツのメンバー)と婚約中で、幸せだったはずなのに、ラヴソングにも疑念や不安が覗く。ニコールからの〈love you baby〉という留守電メッセージを散りばめた「ウィン・サム・ルーズ・サム」然り、『ヘヴン・フロム・ヒア』然り。唯一曇りが無いラヴソングがカヴァー曲だというのがまた、なんとも切ないではないか。ドラマティックに演出されたその美しいバラード「シーズ・ザ・ワン」は、ワールド・パーティーのカヴァー曲だ。自力では書けないけどニコールのために歌いたかったのか、「ミレニアム」に続いて全英チャート1位を獲得して大ヒットを博すものの、アルバムがリリースされる前にふたりは破局。苦い後味が残り、のちにこれまた飛び切り苦い曲をニコールに宛てて綴ることになるのだが、それはまた別の機会に......。

 それでも、本編終了から10分後に聴こえてくる隠しトラック「スタンド・ユア・グラウンド」で、「踏ん張れ!」と自分を奮い立たせるロビー。かと思えば、さらに10分以上の空白を挿んで、2曲目の隠しトラック「ストーカーズ・デイ・オフ」では、ストーカーの視点でネジれた愛情を歌う。自らそういう愛情の対象になったことがあるのかもしれないし、或いは、「こんな僕でも愛して!」と訴えているのか? それとも単なる遊びなのか? こうやってグチャグチャにかき回して混乱させるのもロビーらしい。とにかく、かくも奇妙なアルバムが250万枚売れたとは、世紀末の怪現象と呼ぶしかなさそうだ。
(新谷洋子)


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Robbie Williams

『アイヴ・ビーン・エクスペクティング・ユー』収録曲
01. ストロング/02. ノー・リグレッツ/03. ミレニアム/04. フェニックス・フロム・ザ・フレームス/05. ウィン・サム・ルーズ・サム/06. グレイス/07. イッツ・オンリー・アス/08. ヘヴン・フロム・ヒア/09. カーマ・キラー/10. シーズ・ザ・ワン/11. マン・マシーン/12. ディーズ・ドリームズ(隠しトラック:スタンド・ユア・グラウンド/ストーカーズ・デイ・オフ)