音楽 POP/ROCK

コノノNo.1 『コンゴトロニクス』

2020.12.28
コノノNo.1
『コンゴトロニクス』
2004年作品


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 最近何か音楽を聴いて衝撃を受けたことがあるかと問われたら、正直言って答えに窮してしまうのだが、かれこれ15年以上前に耳にしたコノノNo.1のファースト・アルバム『コンゴトロニクス(Congotronics)』(2004年)は間違いなく、真に衝撃的な作品だった。ガムランにも似た、恐ろしく速いテンポでこぼれ落ちる金属質の楽器の音といい、音の輪郭を微妙にぼかす強烈なフィードバック・ノイズといい、ビリリと感電しそうな生々しいグルーヴ感といい。何千年も前から受け継がれてきた音楽特有の重みを湛えているのに、まぎれもなく現代の都市の喧騒に包まれた、居場所の定まらない奇妙な感触といい。

 その都市とは彼らの場合、今はコンゴ民主共和国を正式名称とするアフリカ中部の国の首都、キンシャサを指す。中心人物のマワング・ミンギエディはアンゴラとの国境に近い地域の出身で、父親から奏法を学んだリケンベ(親指ピアノ)を片手にキンシャサに向かい、1966年にバンドをスタートしたという。つまり、ベルギーからコンゴ共和国として独立したものの、モブツ・セセ・セコによる軍事クーデターで独裁政権時代に突入した動乱の時期に、コノノNo.1は誕生したことになる。もっとも、長年にわたって内戦に揺れ、停戦後も各地で紛争が続いている同国が完全に平和だった時期は現在に至るまでほとんどない。国の形が変わろうが、何が起きようが、彼らが祖国に留まって細々と活動を続行できたこと自体が奇跡に近いんじゃないだろうか。

 そんなコノノNo.1の名前が、結成から約40年を経て本作を経由して海外でも広く知られるようになったこともまた、奇跡というよりほかないのだが、我々が感謝するべき人物はヴァンサン・ケニス。世界中のユニークなアーティストの存在を我々に教えてくれたベルギーの偉大なレーベル、クラムド・ディスクの主宰者のひとりで、自らミュージシャン兼プロデューサーでもある。ヴァンサンは1970年代末に、とあるコンピレーション・アルバムに収録されていた彼らの曲を耳にしてたちまち魅了され、以来度々現地に赴いて消息を追い、ようやくマワングを見つけ出したのが2002年のこと。さらに2年後、いよいよバンドとのレコーディングにこぎつけた。所要時間は3時間、もちろんライヴ録音だ。

 レコーディングの際の編成はと言えば、クレジットによると、まずは高域(メロディ)、中域(伴奏)、低域(ベース)をそれぞれ担当する3人のリケンベ奏者がいる。これがただのリケンベではなく、車の部品だという磁石に銅線を巻きつけたマイクにつないで、拡声器(植民地時代の1950年代にプロパガンダ放送のために街頭に設置されていたものだそうだ)を用いたこれまたお手製のアンプに通すという、前代未聞のスペシャルなリケンベ。そして、同じく3人いるパーカッション奏者のうち、ふたりはコンガを、もうひとりは車のホイールや鍋のフタで構成したキットを叩き、5人の男女のダンサー兼シンガーが加わって、コール&レスポンスのヴォーカルを乗せる。

 じゃあなぜマワングは、わざわざリケンベにプラグを入れたのか? 理由は単純、キンシャサは非常にやかましい町なんだそうで、ただのリケンベを演奏したところで、誰にも聴いてもらえない。とにかく音を大きくする必要があった。そこで身の回りのガラクタを寄せ集めてサウンドシステムを作ったまでで、必要は発明の母、というヤツだ。そして、そのサウンドシステムが原始的であるがゆえに、激しいフィードバックやディストーションが発生する。しかし演奏しているのは基本的に、マワングの家族が代々演奏してきた故郷の伝統音楽であり、バゾンボと呼ばれる人々が、死者の世界にいる先祖とコミュニケートするために奏でる、スピリチャルなトランス・ミュージック。極めてミニマルなサウンド・パターンの反復が微妙に変化し続けて、パーカッション隊が刻む複雑なリズム及びコール&レスポンス・ヴォーカルと絡み合い、フィードバックとディストーションにぐわーんと歪められて、いとも神秘的で奇天烈な代物が出来上がったというわけだ。

 そんな風に、ある意味で意図せずして生まれた唯一無二の音楽を初めて正式に記録した『コンゴトロニクス』の衝撃は、2006年に初来日した体験したライヴで、さらに上書きされた。ボリュームはインダストリアル・ロック級にバカでかく、ダンサーはもちろん踊っているし、観ている我々も踊るしかなかったのだが、バンドの面々はどちらかというと無表情で、淡々と楽器を弾くのみ。あくまで神聖な音楽であることを、あの表情が物語っていたようにも思う。中でも特に、こちらを睨めつけるようにしてリケンベを弾いて強烈な存在感を放っていたのが、マワングの息子オーギュスティン。マワングが引退してからリーダーとなった彼も、父の死の2年後にあたる2017年に亡くなり、現在はマワングの孫マコンダがバンドを率いている。2年前に再来日してからの動向は定かではないけど、ミンギエディ家が続く限り、エレクトリック・リケンベを介した死者たちとのダイアローグは、途切れることはないのだろう。
(新谷洋子)


【関連サイト】
Konono No.1 『Congotronics』(CD)
『コンゴトロニクス』収録曲
01. LUFUALA NDONGA/02. MASIKULU/03. KULE KULE/04. UNGUDI WELE WELE/05. PARADISO/06. KULE KULE REPRISE/07. MAMA LIZA

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