音楽 POP/ROCK

ランディ・ニューマン 『グッド・オールド・ボーイズ』

2024.01.26
ランディ・ニューマン
『グッド・オールド・ボーイズ』
1974年作品

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 昔はスルーされたけど、今では差別的だとかステレオタイプ化を助長するとして使用が憚られる言葉/表現が世の中にはたくさんある。その手の言葉/表現を含むポップソングとして必ず例に挙がるのが、パティ・スミスの「Rock and roll N*****」やジェネシスの「Illegal Alien」、もしくはエルトン・ジョンの「Island Girl」辺りで、あのバンド・エイドの「Do They Know It's Christmas?」でさえ「いかがなものか」と思わせる箇所が見つかるわけだが、ランディ・ニューマンがかれこれ半世紀前に発表した『Good Old Boys』(1974年/全米チャート最高36位)もまた、2024年には生まれ得なかった作品なのかもしれない。何しろ〈Good Old Boys〉からして、アメリカ南部の田舎で暮らす白人男性たちをやや見下す呼び名で、オープニング曲のタイトルも貧しくて無学な南部の白人を指す〈Rednecks〉。戸外で働く肉体労働者であるがゆえに首の後ろが赤く日焼けするという前提に因んでいて、当事者が自嘲的に(もしくは逆手にとって誇らしげに)使う場合を除けば限りなくNGワードに近い。

 片やランディはと言えば、ロサンゼルス生まれのユダヤ系アメリカ人で、レッドネックではない。10代の頃からプロのソングライターとして活躍し、24歳だった1968年にはソロ・アーティストとしてデビュー・アルバム『Randy Newman』を発表。以来幾度か共演していたライ・クーダー(スライド・ギター)とジム・ケルトナー(ドラムス)に加えて、ヴァン・モリソンとのコラボで知られるジョン・プラタニア(ギター)やウィリー・ウィークス(ベース)といった名プレイヤーを起用し、イーグルスからグレン・フライとドン・ヘンリーをバッキング・ヴォーカルに迎えるなど、オールスター・キャストで作った『Good Old Boys』は4作目にあたる。

 その舞台は最初から最後までアメリカ南部。ランディのソングライティングのデフォルトであるキャラクターを介したスタイルで、彼はグッド・オールド・ボーイズを巡るストーリーの数々を、2〜3分台の曲に簡潔に綴っている。例えば2曲目「Birmingham」のバーミンガムとはアラバマ州の町で、全米でも最も人種差別が深刻だったという公民権運動の震源地。そんな歴史を認識しているのか否か、製鉄所で働き、妻と愛犬と慎ましく暮らす一人の男が〈アラバマで一番の町〉に抱く誇りを歌っていて、続く「Marie」はその男が妻に永遠の愛を誓うラヴソングのようで、実は彼が時に暴力も働くというダークな側面を仄めかす。「A Wedding in Cherokee County」にもNGワードが盛られ、チェロキー郡(南部の複数の州にこの名前の郡が見つかる)の住人を〈フリーク〉と呼んでいたりと、捉えようによっては南部の人々の後進性を示唆する内容だし、「A Naked Man」然り、「Back on My Feet Again」然り、〈普通じゃない人たち〉と言いたげ。ちなみに、「Back on My Feet Again」は心を病んでいる男の妄想という設定らしく、彼の妹が黒人男性と恋に落ちて駆け落ちをし、あとになってそれが顔を黒く塗った大金持ちの白人であることを明かされ、〈差別せずに愛してくれた君を幸せにしよう〉と告げられるーーという、何とも複雑な気持ちにさせられる寓話だ。

 他方、ワシントンD.C.の連邦政府との距離感に言及する曲も目立つ。ニクソン政権下の景気後退で困窮した南部の人々が大統領に救いを求めている「Mr. President(Have Pity on the Working Man)」からは、時の権力に彼らが見放されていたことが読み取れるし、「Louisiana 1927」「Every Man A King」「Kingfish」の3曲ではさらに半世紀遡って、政治に翻弄されたルイジアナ州の人々を描く。まず「Lousiana 1927」は、南部の7州が被害を受け、殊にルイジアナ州で多くの死者や被災者を出した1927年の大洪水を題材に取り上げて、貧しさゆえに自分たちを見捨てたと、連邦政府の対応を批判。のちにハリケーン・カトリーナがルイジアナ州を襲いブッシュ政権のお粗末な支援策が非難された際にも、この曲は度々ニュース映像のBGMに使われたりしたものだ。続く「Every Man a King」は、洪水後にルイジアナ州知事になった政治家ヒューイ・ロングがとあるソングライターと組んで1930年代に書いた曲のカヴァーで、自身のスローガンをタイトルに掲げている。そう、自分は富を平等に分配すると洪水被災者たちに約束して知事に当選し、「Kingfish」はそんなロング知事の功績をつらつらと並べる演説のような曲なのだが(〈Kingfish〉は彼のニックネームだという)、その後上院議員になり一時は大統領を目指すものの、数々のスキャンダルに見舞われた彼は1935年に暗殺されてしまう。

 こうして本作を聴き進めるうちに、ランディは決してグッド・オールド・ボーイズを茶化そうとしてこのアルバムを作ったわけではないことが分かって来る。そもそも彼は前述した通りロサンゼルス生まれながら、母の家族はルイジアナ州出身。幼い頃からニューオーリンズを度々訪れていたことから、パーソナルな体験・見聞もこれらの曲に反映されているのだとか。音楽的にも、カントリーをベースに豪奢なストリングスで彩ったサウンドスケープは美しく、メロディは優しくて、ランディはむしろ南部の人々にシンパシーを寄せているように感じられる。敢えて彼らをステレオタイプ化することで北部の人間の偏見や偽善や優越感が見えてくる、というか。そういうアルバムの本質を最も明確に映しているのが「Rednecks」だ。冒頭で語り手は〈昨夜テレビでレスター・マドックスを観た〉と切り出すのだが、聞けば、人種差別主義者だったジョージア州の知事レスター・マドックスが1970年に全米ネット局のテレビ番組に出演した際にホストにバカにされて席を蹴った事件に因んでいるそうで、この一件に憤りを覚えた語り手は、田舎者ぶりを誇示し、南部の差別の歴史にも臆することなく触れる。そして、〈じゃあ北部はどうなのか?〉と問いかけるのである。北部では黒人は解放されていると言うけど、実際はニューヨークでもボストンでもゲットーに閉じ込められているじゃないかーーと。

 しかもこれは50年前の話として片付けられるものではなく、今もなお南部の州は貧困率において全米でも上位を占めているし、南北戦争の戦線に沿ってアメリカ社会は分断され、いわゆるカルチャー・ウォー(=価値観の対立)がここにきて激化。ご存知の通り、それがトランプ政権の誕生につながったとされている。年が明けて次の大統領選に向けてアメリカが大きく動き始める中、このアルバムを聴き直したくなったのは偶然ではなかったのかもしれない。
(新谷洋子)


【関連サイト】
Randy Newman
Randy Newman Good Old Boys
『Good Old Boys』収録曲
1. Rednecks/2. Birmingham/3. Marie/4. Mr. President(Have Pity on the Working Man)/5. Guilty/6. Louisiana 1927/7. Every Man a King/8. Kingfish/9. Naked Man/10. A Wedding in Cherokee County/11. Back on My Feet Again/12. Rollin'

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