音楽 POP/ROCK

ザ・キュアー 『キス・ミー、キス・ミー、キス・ミー』

2013.05.18
ザ・キュアー
『キス・ミー、キス・ミー、キス・ミー』
1987年作品


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 「じゃあ次回はまた23年後にね!」と、23年ぶりの来日となった2007年のフジロック・フェスティバルでの公演中に、茶目っ気たっぷりに告げたのはザ・キュアーのフロントマン=ロバート・スミス。なのに、なんのことはない、たった(!?)6年後の今年、彼らはまた同じステージに立つのだが、「こりゃ歴史的一大事」と思って駆け付けた6年前の苗場は、今ひとつオーディエンスの盛り上がりに欠け、支持層の空洞化を痛感させたものだ。もちろんフェスだから仕方ない部分もあるし、23年間も来日していなければ空洞化しても当然。それに、おそらくザ・キュアーというバンドそのものの分かりにくさも無関係じゃないのかもしれない。まず、今も昔も逆毛&アイライナー&くちびるからはみ出た深紅の口紅ーーというロバートの定番スタイルからして、初心者にはハードルが高いだろうし、音楽的にもつかみどころがなくて「これぞザ・キュアー節」という定義に関して、ファンの間でも意見が割れると思うのだ。

 1st『スリー・イマジナリー・ボーイズ』(1979年)のバズコックス譲りのアップビートなパンク、2nd『セヴンティーン・セコンズ』(1980年)から『ポルノグラフィー』(1982年)に至る3作品の暗鬱でモノクロームなゴシック・ロック、そんな路線への反動を含んだ1980年代初めの奇天烈なダンスポップ、さらにその後聞こえてきたロマンティックなギターポップ......。どれも同等にザ・キュアー節であり、英国では奇天烈ダンスポップ(1983年に初の全英トップ10ヒットになった「ザ・ラヴキャッツ」ほか)、米国ではロマンティック路線(こちらは1985年に初の全米トップ100入りを果たした「インビトウィーン・デイズ」ほか)でそれぞれブレイクしているから、場所によってもバンド像にズレがあるんだろう。

 なぜここまでの歴史をくどくどと振り返ったかと言えば、彼らのメインストリーム進出を決定づけたこの1987年発表の7作目『キス・ミー、キス・ミー、キス・ミー』(チャート・ポジションは当時最高の全英6位、全米35位)は、ザ・キュアーが結成以来10年間に次々に披露してきたこれらの雑多なスタイルを全て詰め込んだ、一番多様なショウケース的アルバムであるからにほかならない。だから本作は計75分、18曲入り、2枚組のボリューム。ロバートにとって最も忠実なコラボレーターと呼べる、サイモン・ギャラップ(ベース)とポール・トンプソン(ギター/キーボード)を含む(筆者が思うに)ベスト編成の5ピースで、デヴィッド・M・アレン(1984年の『ザ・トップ』以降5作品で組んだプロデューサー)と共に作り上げたものだ。

 そんな長丁場だけに、オープニングではたっぷり時間をとって、4分近いイントロを配置。ポストパンク期の英国を代表するギタリストのひとりだったロバートが腕をふるう、ディレイとエコーをかけまくったギターの洪水の中でアルバムは幕を開ける。以下、ゴス時代を引き継ぐムーディー路線なら、ホラー映画のサントラに使えそうな「ライク・カカトゥーズ」や「ファイト」。奇天烈ダンスポップなら、「ホワイ・キャント・アイ・ビー・ユー?」と「ヘイ・ユー」と「ホット・ホット・ホット」のザ・キュアー・ディスコ3部作。ロマンティック路線なら「キャッチ」や「ジャスト・ライク・ヘヴン」。これまた彼らが昔から随所で取り入れてきた東洋趣味も、「スネイクピット」や「イフ・オンリー・トゥナイト・ウィー・クッド・スリープ」に垣間見える。アナログとして捉えれば本作には4面があるわけだが、4面それぞれに傾向が違う曲を織り交ぜており、優しかったり、落ち込んでいたり、怒りに_燃えていたり、コミカルだったり、ハイだったり、スウィートだったり、ビターだったり、キャッチーさを極めたかと思えば、混沌の深みに転落......。呆気にとられるほどにクルクル表情を変える、この激しい感情の揺れこそがザ・キュアーなんだと思う。

 従って全編に共通するのは、ロバートの濃厚なキャラと歌声のみ。それだけで十分。この2年後に登場した、ムーディー路線が支配的な次のアルバム『ディスインテグレーション』の方が遥かにサウンドに統一感のある傑作なのだが、彼らのチルドレン(米国だけでもノー・ダウトにインターポール、デフトーンズ、マリリン・マンソン、ブリンク182......)が恐ろしく幅広いのも、多面性を備えているからこそ。やっぱり真の意味でザ・キュアーらしいのは、あのくちびるでベットリとキスされた気分が味わえる本作なのである。
(新谷洋子)


【関連サイト】
ザ・キュアー
ザ・キュアー『キス・ミー、キス・ミー、キス・ミー』(CD)
『キス・ミー、キス・ミー、キス・ミー』収録曲
01. キス/02. キャッチ/03. トーチャー/04. イフ・オンリー・トゥナイト・ウィー・クッド・スリープ/05. ホワイ・キャント・アイ・ビー・ユー?/06. ハウ・ビューティフル・ユー・アー/07. スネイクピット/08. ヘイ・ユー/09. ジャスト・ライク・ヘヴン/10. オール・アイ・ウォント/11. ホット・ホット・ホット/12. ワン・モア・タイム/13. ライク・カカトゥーズ/14. アイシング・シュガー/15. パーフェクト・ガール/16. ア・サウザンド・アワーズ/17. シヴァー・アンド・シェイク/18. ファイト

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