ジャッキー・ウィルソン 『ハイヤー・アンド・ハイヤー』
2011.07.07
ジャッキー・ウィルソン
『ハイヤー・アンド・ハイヤー』
1967年作品
ところが、その死から約1ヶ月後に行われた第26回グラミー賞の式典で、一瞬、彼の名が再び脚光を浴びる出来事があった。この年、マイケル・ジャクソンはあの『スリラー』(1982年)で8部門ものグラミー賞を手中に収めたのだが、最優秀アルバム賞の受賞スピーチの際、彼は壇上で逝去したばかりのジャッキーに賛辞を贈り、生前の功績を称えたのだ。長年の熱狂的なジャッキー・ファンの旧友が、そのスピーチを聞いて「あれには救われた」と言ったことが未だに脳裏から離れない。ジャクソン・ファイヴ時代、マイケルはジャッキーの曲をカヴァーしていたし、何よりも、激しいステージ・アクションを大先輩から学んだ。更に踏み込んで言えば、ジャッキーは、マイケルを世に送り出したモータウンの創設者ベリー・ゴーディ・Jr.がソングライターとして頭角を現すきっかけを作ってくれた大スターでもあった。グラミー賞式典でのあのスピーチを聞いた往年のジャッキー・ファンの人々は、瞬時にしてその相関図を頭に思い浮かべ、と同時にマイケルの言葉に救われたことだろう。
ジャッキーの黄金時代は1950年代後期から1960年代の前半、即ちヒット曲でいうなら、ゴーディのソングライターとしての出世作「To Be Loved」(1958年/R&BチャートNo.7、全米No.22)から「Baby Workout」(1963年/R&Bチャートで3週間にわたってNo.1、全米No.5)までの間である。1966年にも「Whispers (Gettin' Louder)」(R&BチャートNo.5、全米No.11)なる曲がヒットしているのだが、ヒット曲を連発していた1958年〜1963年の破竹の勢いに較べると、同曲の印象はやや地味だ。しかしながら、「ブラック・エルヴィス」の異名をとったーー特にイギリス人がこのニックネームを好むーージャッキーの伸びやかで朗々とした歌声は、「Whispers」でも少しも衰えてはいない。
その「Whispers」のヒットから約10ヶ月後、ジャッキーは生前最後の大ヒット曲「(Your Love Keeps Lifting Me) Higher And Higher」(1967年/R&BチャートNo.1、全米No.6)を放つ。彼が所属していたレーベル、Brunswick Recordsのセッション・バンドの演奏がどれほど薄っぺらくても(ジャッキーのアルバムを聴く度にこの点に不満が募る)、彼のヴォーカルは未だ瑞々しさを失わず、かつての輝きを思い出させてくれる。更にこのアルバムの素晴らしいところは、非シングルに佳曲が多いこと。裏を返せば、当時、それらの楽曲をシングル・カットしなかったBrunswickのスタッフが如何にセンスがなかったかを露呈しているようなもの。今更ながらにそれを悔いたのか、現在、流布している本アルバムのCDは、何故だかLPリリース時の曲順を入れ替えてあり、オリジナルLPの曲順をCDのそれに直すと、1、8、11、4、5、10、6、3、7、9、2、となる。タイトル曲と並ぶほどの佳曲「You Can Count On Me」が2曲目にいきなり配置換えになっているのを知った時には、失笑を禁じ得なかった。何故に同曲を当時シングル・カットしなかったのか、と、ずっと不思議だったからである。個人的には、同曲はアルバム収録曲中のベスト・トラックだと思う。ジャッキー特有の鼻から抜ける破裂音的ヴォーカルが、聴く度に心地好い爽快感をもたらしてくれる。また、生前、ジャッキーの代名詞だった「womanizer(女たらし)」を地で行くようなスロウ・ナンバー「I Don't Need You Around」での歌いっぷりもブラック・エルヴィスさながらだが、CD化の際に何故にわざわざ最後に配置し直したのか理解に苦しむ。女性に向かって「もう俺の目の前をうろちょろするな」と冷たく言い放つこのバラッドは、明朗快活な「Higher And Higher」の直後に配置されてこそ際立つのに。CDで聴く際には、ぜひともオリジナルLPの曲順に合わせてプログラムをセットして頂きたい。尚、以上の楽曲以外に、特にジャッキーの破裂音ヴォーカルと溜め息が冴えるのは、「I've Lost You」(R&BチャートNo.35、全米No.82)、「Open The Door To Your Heart」、そして「Higher And Higher」のB面だった「I'm The One To Do It」である。
筆者はその昔、年季の入ったR&B/ソウル・ミュージック愛好家の知人に「モータウン(=デトロイト産のR&B)を聴くなら、その前にジャッキー・ウィルソンを聴かなくちゃダメだよ」とアドバイスされたことがある。つまり、ゴーディがモータウンを興す前に一介のソングライターとしてジャッキーに提供した曲を聴けと。そして、聴いた。中古レコード屋でジャッキーのLPを漁りもした。が、今なお愛聴盤であり続けているのは、ゴーディ作の曲が満載の代表作『HE'S SO FINE』(1958年)でもなければ『LONELY TEARDROPS』(1959年)でもなく、この『HIGHER AND HIGHER』と、『JACKIE SINGS THE BLUES』(1960年)、或いは『WHISPERS』(1966年)だったりする。いずれもジャッキーとゴーディの蜜月終了後に制作されたアルバムだ。ゴーディのソングライターとしての萌芽をジャッキーの楽曲に見出すことはできても、モータウン・サウンドの雛形を彼の曲やヴォーカル・スタイルに求めるのには無理があるのではないか。ジャッキーはジャッキーであって、モータウン・サウンドとは切り離して考えたい。第一、ゴーディ作の楽曲以外でも、彼のヴォーカルはあんなにも魅力的だったではないか。そしてそれは、彼が第一級のシンガーだったことの何よりの証でもある。
本アルバムのタイトルを拝借して言うなら、空高く突き抜けて行くようなジャッキーの思い切りのいいヴォーカルは、まさに聴く者の心をどこまでも高揚(=keeps lifting us higher and higher)させてくれる。エルヴィスを超えたブラック・エルヴィスの面目躍如。
『ハイヤー・アンド・ハイヤー』
1967年作品
R&B史、延いてはポピュラー音楽史上において、過去の栄光と現在の受け止められ方がこれほどまでに乖離しているアーティストは、ジャッキー・ウィルソンをおいて他にはいないのではないか。亡くなるまでの数年間、病床にあったとは言え、1984年1月21日、遂に力尽きたジャッキーが49歳の若さでこの世を去った時、その訃報記事の扱われ方が驚くほど小さかったことに戸惑いを覚えたものだ。
ところが、その死から約1ヶ月後に行われた第26回グラミー賞の式典で、一瞬、彼の名が再び脚光を浴びる出来事があった。この年、マイケル・ジャクソンはあの『スリラー』(1982年)で8部門ものグラミー賞を手中に収めたのだが、最優秀アルバム賞の受賞スピーチの際、彼は壇上で逝去したばかりのジャッキーに賛辞を贈り、生前の功績を称えたのだ。長年の熱狂的なジャッキー・ファンの旧友が、そのスピーチを聞いて「あれには救われた」と言ったことが未だに脳裏から離れない。ジャクソン・ファイヴ時代、マイケルはジャッキーの曲をカヴァーしていたし、何よりも、激しいステージ・アクションを大先輩から学んだ。更に踏み込んで言えば、ジャッキーは、マイケルを世に送り出したモータウンの創設者ベリー・ゴーディ・Jr.がソングライターとして頭角を現すきっかけを作ってくれた大スターでもあった。グラミー賞式典でのあのスピーチを聞いた往年のジャッキー・ファンの人々は、瞬時にしてその相関図を頭に思い浮かべ、と同時にマイケルの言葉に救われたことだろう。
ジャッキーの黄金時代は1950年代後期から1960年代の前半、即ちヒット曲でいうなら、ゴーディのソングライターとしての出世作「To Be Loved」(1958年/R&BチャートNo.7、全米No.22)から「Baby Workout」(1963年/R&Bチャートで3週間にわたってNo.1、全米No.5)までの間である。1966年にも「Whispers (Gettin' Louder)」(R&BチャートNo.5、全米No.11)なる曲がヒットしているのだが、ヒット曲を連発していた1958年〜1963年の破竹の勢いに較べると、同曲の印象はやや地味だ。しかしながら、「ブラック・エルヴィス」の異名をとったーー特にイギリス人がこのニックネームを好むーージャッキーの伸びやかで朗々とした歌声は、「Whispers」でも少しも衰えてはいない。
その「Whispers」のヒットから約10ヶ月後、ジャッキーは生前最後の大ヒット曲「(Your Love Keeps Lifting Me) Higher And Higher」(1967年/R&BチャートNo.1、全米No.6)を放つ。彼が所属していたレーベル、Brunswick Recordsのセッション・バンドの演奏がどれほど薄っぺらくても(ジャッキーのアルバムを聴く度にこの点に不満が募る)、彼のヴォーカルは未だ瑞々しさを失わず、かつての輝きを思い出させてくれる。更にこのアルバムの素晴らしいところは、非シングルに佳曲が多いこと。裏を返せば、当時、それらの楽曲をシングル・カットしなかったBrunswickのスタッフが如何にセンスがなかったかを露呈しているようなもの。今更ながらにそれを悔いたのか、現在、流布している本アルバムのCDは、何故だかLPリリース時の曲順を入れ替えてあり、オリジナルLPの曲順をCDのそれに直すと、1、8、11、4、5、10、6、3、7、9、2、となる。タイトル曲と並ぶほどの佳曲「You Can Count On Me」が2曲目にいきなり配置換えになっているのを知った時には、失笑を禁じ得なかった。何故に同曲を当時シングル・カットしなかったのか、と、ずっと不思議だったからである。個人的には、同曲はアルバム収録曲中のベスト・トラックだと思う。ジャッキー特有の鼻から抜ける破裂音的ヴォーカルが、聴く度に心地好い爽快感をもたらしてくれる。また、生前、ジャッキーの代名詞だった「womanizer(女たらし)」を地で行くようなスロウ・ナンバー「I Don't Need You Around」での歌いっぷりもブラック・エルヴィスさながらだが、CD化の際に何故にわざわざ最後に配置し直したのか理解に苦しむ。女性に向かって「もう俺の目の前をうろちょろするな」と冷たく言い放つこのバラッドは、明朗快活な「Higher And Higher」の直後に配置されてこそ際立つのに。CDで聴く際には、ぜひともオリジナルLPの曲順に合わせてプログラムをセットして頂きたい。尚、以上の楽曲以外に、特にジャッキーの破裂音ヴォーカルと溜め息が冴えるのは、「I've Lost You」(R&BチャートNo.35、全米No.82)、「Open The Door To Your Heart」、そして「Higher And Higher」のB面だった「I'm The One To Do It」である。
筆者はその昔、年季の入ったR&B/ソウル・ミュージック愛好家の知人に「モータウン(=デトロイト産のR&B)を聴くなら、その前にジャッキー・ウィルソンを聴かなくちゃダメだよ」とアドバイスされたことがある。つまり、ゴーディがモータウンを興す前に一介のソングライターとしてジャッキーに提供した曲を聴けと。そして、聴いた。中古レコード屋でジャッキーのLPを漁りもした。が、今なお愛聴盤であり続けているのは、ゴーディ作の曲が満載の代表作『HE'S SO FINE』(1958年)でもなければ『LONELY TEARDROPS』(1959年)でもなく、この『HIGHER AND HIGHER』と、『JACKIE SINGS THE BLUES』(1960年)、或いは『WHISPERS』(1966年)だったりする。いずれもジャッキーとゴーディの蜜月終了後に制作されたアルバムだ。ゴーディのソングライターとしての萌芽をジャッキーの楽曲に見出すことはできても、モータウン・サウンドの雛形を彼の曲やヴォーカル・スタイルに求めるのには無理があるのではないか。ジャッキーはジャッキーであって、モータウン・サウンドとは切り離して考えたい。第一、ゴーディ作の楽曲以外でも、彼のヴォーカルはあんなにも魅力的だったではないか。そしてそれは、彼が第一級のシンガーだったことの何よりの証でもある。
本アルバムのタイトルを拝借して言うなら、空高く突き抜けて行くようなジャッキーの思い切りのいいヴォーカルは、まさに聴く者の心をどこまでも高揚(=keeps lifting us higher and higher)させてくれる。エルヴィスを超えたブラック・エルヴィスの面目躍如。
『ハイヤー・アンド・ハイヤー』収録曲
01. (Your Love Keeps Lifting Me) Higher And Higher/02. I Don’t Need You Around/03. I’ve Lost You/04. Those Heartaches/05. Soulville/06. Open The Door To Your Heart/07. I’m The One To Do It/08. You Can Count On Me/09. I Need Your Loving/10. Somebody Up There Likes You/11. When Will Our Day Come
(注:曲順はオリジナル盤LPに準ずる)
01. (Your Love Keeps Lifting Me) Higher And Higher/02. I Don’t Need You Around/03. I’ve Lost You/04. Those Heartaches/05. Soulville/06. Open The Door To Your Heart/07. I’m The One To Do It/08. You Can Count On Me/09. I Need Your Loving/10. Somebody Up There Likes You/11. When Will Our Day Come
(注:曲順はオリジナル盤LPに準ずる)
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