音楽 POP/ROCK

ティーンエイジ・ファンクラブ 『カソリック・エデュケイション』

2021.04.23
ティーンエイジ・ファンクラブ
『カソリック・エデュケイション』
1990年作品


TEENAGE FANCLUB j1
 すっかり存在を忘れていた――などと言ったら失礼にあたるのかもしれないけど、2021年4月末に新作『Endless Arcade』が控えるティーンエイジ・ファンクラブにインタヴューすることになって、ファースト・アルバム『カソリック・エデュケイション』(1990年)を久々に聴き直してみた。彼らの代表作と言えば通常は、あのクリエイション・レコーズから発表したセカンド『バンドワゴネスク』(1991年)や4作目『グランプリ』(1993年)が筆頭に挙がるのだが、いやいや、ファーストだってこんなにいいアルバムだったんだと、30年越しにウンウンと唸っている今日この頃である。何が面白いって、『バンドワゴネスク』のほんの1年半前にリリースされたというのに、同作以降の彼らの路線――つまり、ザ・バーズなどにしばしば比較される美メロ+美ハーモニーのギターロック路線とは、全く毛色が違っていたのだ。ノイジーで、雑然としていて。そういう意味では、例えば、レディオヘッドにとっての『パブロ・ハニー』やホラーズの『ストレンジ・ハウス』に似た位置付けなのかもしれない。

 それはまた、マッドチェスター系やシューゲイザー系のバンドが席巻していた1990年前後の英国においても、異彩を放つアルバムだった。A面もB面もずばり「Heavy Metal」と題されたグランジ―なインストゥルメンタル曲で始まり(B面は7分半に及ぶ「Heavy Metal II」で幕を切る)、ニール・ヤングの影響を満々と湛える歪んだギターの轟音は、地元じゃなくて、北米のインディ・ロック・シーンへの親和性を明確に示す。そう、ザ・ストーン・ローゼズよりもニルヴァーナ、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインよりもダイナソーJr.に近い場所に立っているというか。実際、1980年代半ばにスコットランドのグラスゴーで結成されたザ・ボーイ・ヘアドレッサーズ(以下TBH)を前身とする彼らは、かねてからアメリカ各地のインディ・バンドと交流があり、インスピレーションを得ていたそうだ。それでいてTBHが残した音源から聴こえるのは、(『バンドワゴネスク』のそれとは少々趣向が違うものの)美メロ+美ハーモニーの繊細なサウンドなのだから、ここでヘヴィに急旋回して生まれたネジレは興味深い。

 それにしても本作はデモ音源じゃないかと思うほどローファイなアルバムなのだが、誕生した経緯を振り返ると、なぜそうなったのか納得が行く。TBHの解散を受けて3人のメンバー――ノーマン・ブレイク(ヴォーカル/ギター)、レイモンド・マッギンリー(ヴォーカル/ギター)、フランシス・マクドナルド(ドラムス)――が、ジェラード・ラヴ(ヴォーカル/ベース)を交えてティーンエイジ・ファンクラブとして再出発したのが、1989年のこと。下積みが長かったこともあり、とにかくアルバムを作りたかった彼らは、レーベル探しを後回しにして自ら資金を工面し、セルフ・プロデュースで本作をさくっとレコーディング。途中でフランシスが大学に行くために脱退し(その後彼はバンドに復帰している)、曲によって異なるドラマーが叩いているという場当たり的なところも、勢い重視で作ったことを物語っている。

 また、『バンドワゴネスク』以降のティーンエイジ・ファンクラブでは、ノーマンとレイモンドとジェラルドがソングライティングを3分の1ずつ手分けして行ない、リード・ヴォーカリストを務める形を取るのだが、この時点ではノーマンとレイモンドが曲作りを担当。作品を重ねるごとにはっきりしていくふたりのキャラクターがすでにちゃんと表れていて、人間関係を切ないタッチで描くノーマンに対し、レイモンドの言葉はちょっと冷笑的かつ虚無的というべきか? たまらなくピュアなラヴソング「Every Picture I Paint」は、連名でクレジットされているけどノーマンが歌詞を綴ったに違いないし、カソリック教会に対する率直な気持ちを吐き出したと思しき表題曲は、レイモンド節の好例。ヒップスター気取りの人間を嘲笑う「Everybody's Fool」もレイモンドっぽい。その「Everybody's Fool」はちなみに本作で唯一3人が共作した曲で、サビを一緒に歌っているものの、まだまだハーモニーを紡ぐには程遠いユニゾン・スタイルだ。

 そんな風に前のめり感を素直に映した不協和音の中には、実は、優しいメロディが埋もれている。特に、現在もライヴセットに欠かせないシングル曲「Everything Flows」にはこのコントラストが絶妙なサジ加減で表れているのだが、彼らが「Everything Flows」を歌い続けているのは恐らく、20代の若者の姿が透けて見えるほかの曲と違って、歌詞がタイムレスだからなんだろう。なぜって開口一番聴こえてくるのは、〈毎年君が年を取っていくのが分かる/でも君は変わらないね/もしくは、僕は変わったことに気付いていないんだ〉という、随分大人な言葉。ジェラルドは3年前に脱退してしまい、「Endless Arcade」では再びノーマンとレイモンドがソングライターとしてクレジットされているけど、30余年を共に過ごしてきた今お互いを見てどんな想いを抱くのか、ふたりに訊いてみようと思う。
(新谷洋子)


【関連サイト】
『カソリック・エデュケイション』収録曲
01. Heavy Metal/02. Everything Flows/03. Catholic Education/04. Too Involved/05. Don't Need a Drum/06. Critical Mass/07. Heavy Metal II/08. Catholic Education 2/09. Eternal Light/10. Every Picture I Paint/11. Everybody's Fool

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