音楽 POP/ROCK

ウルトラヴォックス 『ラメント』

2023.10.23
ウルトラヴォックス
『ラメント』
1984年作品


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 ウルトラヴォックスというブリティッシュ・バンドのキャリアは、1970年代のジョン・フォックス時代と1980年代以降のミッジ・ユーロ時代、ふたつの時代に分けることができる。ふたりのフロントマンの声の質が異なるのはもちろんのこと音楽的方向性もそれぞれ違っていて、どっちを好むかは人それぞれだと思うが、世代的にミッジが歌うウルトラヴォックスに親しんだ筆者は、あとになってジョンの時代の3作品を聴いてビックリさせられたものだ、ぜんぜん違うバンドじゃないかと。

 というのも、1974年にジョン(ヴォーカル)、ビリー・カリー(キーボード、ヴァイオリン)、ウォーレン・カン(ドラムス)、クリス・クロス(ベース)、スティーヴィー・シアーズ(ギター)の5人編成でロンドンにて結成されたウルトラヴォックスが、最初の2枚のアルバムーー共に1977年に発表した『Ultravox!』と『Ha! Ha! Ha!』ーーで鳴らしていたのは、ざっくり総括するならグラムとパンク、ロキシー・ミュージックとセックス・ピストルズの中間に着地するロック。それが、サード『Systems of Romance』(1978年)に至ってクラフトワークやノイ!とのコラボで知られるコニー・プランクをプロデューサーに選ぶと、シンセの分量を一気に増やして、エレクトロニックな表現で実験を始めたのである。

 しかし、新たなフェーズに入った矢先にジョンが脱退。バンドは解散同然の状態に陥るのだが、そこにザ・リッチ・キッズのフロントマンを経てヴィザージュの結成にも関わったミッジが現れ、ミッジ、ビリー、ウォレン、クリスの4ピースで再スタートを切る。そして引き続きコニーと組んだ4作目『ヴィエナ』(1980年)では、ミッジのクリーンなハイトーン・ボイスも相俟って、エクスペリメンタルな前作よりも遥かに分かりやすく、同時期のシンプル・マインズにも通ずるヨ―ロピアンなロマンティシズムで貫いた、シンセ・ポップの定型を確立。全英チャート最高3位を記録しただけでなく表題曲や「Sleepwalk」といったヒット・シングルも生まれて、同じくコニーと作った5作目『Rage in Eden』(1981年)も、あのジョージ・マーティン御大を起用した6作目『Quartet』(1982年)も、トップ10入りを果たした。

 こうして相次いで大物と組んで多くを学んだと思われるウルトラヴォックスは、筆者が特に愛聴していた7作目『Lament』(全英チャート最高7位)で初めてセルフ・プロデュースに挑戦。それまでの3枚はわりとトーンが均一だったのだが、本作は違った。ギターがここにきて再び主張を強め、アンセミックさが増し、以前の作品に多かった抽象的表現に代わって、よりリアリティのある歌詞が目立つーーという全体的傾向を踏まえ、多様なアプローチをとっている。例えば、ファンキーなビートを前面に押し出した「White China」はダンサブル極まりないし、不安げなシロフォンの音がまさに〈嘆いて(lament)〉いる表題曲ではダウンテンポな新境地を拓き、「A Friend I Call Desire」ではゴスに接近して、エンパワーリングなメッセージを乗せた「One Small Day」などでは所謂ビッグ・ミュージック系(U2やザ・ウォーターボーイズに代表される、80年代半ばに一世を風靡したスケール感のあるギターロック)に同調。その「One Small Day」然り、「Man of the Two Worlds」然り、ケルト音楽に根差した曲が含まれているのも『Lament』の特徴のひとつで、故郷スコットランドを訪れた時にミッジがその美しさを讃えるべく綴った後者は、ゲール語で歌うメイ・マッケナ(スコットランドのフォークバンド、コントラバンドの元シンガー)とのデュエットで聞かせている。ケルティックなスタイルはちなみに、ミッジがのちにソロ・アーティストとして掘り下げる路線だ。

 そんな望郷の曲がある一方で、本作は恋愛論(「When the Time Comes」)から時事ネタ(「White China」は3年後に迫っていた香港の中国への返還をにらんで不安を抱く住人に心を寄せている)まで、ミッジの価値観を伝えるテーマを幅広く網羅しているが、中でも「Vienna」に次ぐキャリア最大のヒットを記録したのが時事ネタ・ソングのひとつ、「Dancing With Tears In My Eyes」(全英チャート最高3位)である。モトリック・ビートを背景に彼が扮するのは、核戦争で世界が終ろうとしている中で、思い出に耽りながら愛する人と最後のひと時を過ごす男性(PVでは原発の爆発事故で核戦争を置き換えていた)。ダイナミックなヴォーカルとアップビートな曲調で物語の悲劇性を受け止めるこの曲はしかし、ファンタジーどころか、1984年の世界のリアリティだったと言っても過言じゃない。

 何しろ冷戦下の当時は、遅かれ早かれ米ソの戦争が始まって核戦争で地球は滅亡すると考えていた人は少なくなかったし、世界終末時計の針はそれまでで最も深刻な0時3分前まで進み、ポップ・ミュージックの世界でも核戦争や世界の終わりを題材にした曲がほかにも多数リリースされ、チャートを賑わせもした。同じ1984年に全英ナンバーワンを獲得したフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドの「Two Tribes」を筆頭に、ミッドナイト・オイルの「Minutes To Midnight」、アイアン・メイデンの「2 Minutes To Midnight」、デペッシュ・モードの「Two Minutes Warning」、U2の「Seconds」、デヴィッド・ボウイの(核戦争をテーマにした同名の映画の主題歌だった)「When The Wind Blows」、プリンスの「1999」......と枚挙に暇がない。そういう意味でウルトラヴォックスが作ったのは時代の趨勢に適った曲であり、だからこそ「最後の日をあなたはどう過ごすのか」と問いかける歌詞に共感せずにいられなかったのを覚えている。

 その後緊張は緩和されて時計の針も後退していたのだが、過去10年程の間にキナ臭さが増し、今年は1分30秒前にまで迫っている。核もさることながら気候変動の脅威が大きく影響しているわけだが、「Dancing With Tears In My Eyes」を始め今も違和感なく響く40年前のアポカリプティック・アンセムの数々に、奇妙な安堵感みたいなものを感じている。
(新谷洋子)


【関連サイト】
『ラメント』収録曲
01. White China/02. One Small Day/03. Dancing with Tears in My Eyes/04. Lament/05. Man of Two Worlds/06. Heart of the Country/07. When the Time Comes/08. A Friend I Call Desire

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